おむつ売りのネコミミ
Syuji
クリスマスの晩。雪の降る中、一人のネコミミがおむつを売っておりました。
「おむつ、おむつはいかがですか」
しかしおむつは売れません。ネコミミは手持ちのおむつが全て売れないと、帰ってきてはいけないと父に言い付けられているのです。暖炉の明かりが漏れる民家の窓をふと覗いてみると、テーブルを囲んで暖かい食事を楽しむ家族の姿が見えます。
「ああ、なんてあったかそうなんでしょう。私もあの中に居られたらいいのに」
しかし、おむつが全て売れなければ、自分の家で温まる事もできません。せめてもの温かさを求めて、ネコミミはおむつを一枚だけ、使ってみる事にしました。すると、どうした事でしょう。ネコミミの目の前に、突然暖かそうな子供部屋の光景が現れたのです。
ベビーベッドの上で温もりと安らぎを感じていたネコミミですが、お漏らしをすると途端にその光景はかき消えてしまい、後に残ったのは濡れて冷たくなっていく使用済みおむつだけでした。
「あっ、もう消えてしまったわ。おむつを交換すれば、またあの部屋に居られるのかしら。もう一枚だけ、当ててみようかしら」
ネコミミは使用済みのおむつを畳むと、もう一枚おむつを取り出して自分に当てました。
するとどうでしょう。またもや突然子供部屋の光景が現れて、ネコミミは哺乳瓶から暖かいミルクを飲んでいたのです。懐かしくも遠い記憶、温かいミルクを飲んでいたあの頃の思い出に浸りながら、ネコミミはミルクを味わっていました。
飲み物を飲んだためか、また訪れたお漏らしと共に、子供部屋の風景もミルクの後味もかき消えてしまいました。ネコミミはあの子供部屋を求めて、次々におむつを濡らしていきました。あっという間に時は過ぎ、ついには残り一枚までおむつは減ってしまっていたのです。
ネコミミはもはや一切の迷いを持たず、手慣れた様子でおむつを替えました。現れた子供部屋で、ネコミミは温かい手の中に抱かれていました。
「ああ、お姉ちゃん!」
温かい手の主は、バイオネコミミ工場で彼女を造った研究者でした。今の父に引き取られた時以来、ずっと会っていないのです。
ネコミミはずっとお姉ちゃんに会いたかった事、いまのつらいおむつ売りの事、思いつく限りいっぱい話しました。お姉ちゃんは微笑んでそれを聞いていましたが、それにも終わりの時が近づいていました。ネコミミは、忍び寄る尿意の気配をすぐ近くまで感じていたのです。
「待って、行ってしまわないで!私もお姉ちゃんと一緒に行くから!」
お姉ちゃんは優しく頷くと、ネコミミを抱いて裏通りへと消えて行きました。
翌日、街の人たちは、裏通りで横たわるネコミミを見つける事になりました。
全身をベビールックで固めたネコミミの傍らには、詳細なオプションを記したメニューボードが完備され、エロスとフェティシズムを求める人々の列が絶える事はありませんでした。もはやネコミミを縛るものは何もないのです。温かいおむつに包まれてネコミミは、お姉ちゃんと幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。