いつまでも続きそうな先生の長話に耐えるオレの耳に、ようやく放課後を知らせるチャイムが届いた。普段は飾りでしかない猫耳に全神経を集中させた甲斐があったもんだ(いや、だからって放課後が早くなるわけじゃないけど)。

 もう学校に5年も通っているけど、待ちに待った放課後の嬉しさは今も最初も変わらない。
「起立、みなさん、さようなら!」
「さようならー!」

 適当に話を切り上げた先生の号令が終わると、みんなも待ちかねていたように散り散りに動き出した。サッカー少年団のタツヤと仲間達はグラウンドのいいスペースを取りに外に走り出し、気の強い女子達は窓際に固まっておしゃべりに花を咲かせている。

 他にもいくつかのグループが教室に残ってなにやら話し込んでるけれど、そのうち一つ、やたら目立つウサミミ三対が不本意にも目に付いた。なにやら興奮しながら、ケータイターミナルの画面を覗き込む三バカは、2年生の時からずっと同じクラスの腐れ縁だ。

「なんだよ、また何かエロいサイトでも見て――」
「おお、ヨッシー!いい所に来た!」
 リーダー格のタローがオレの言葉を遮りつつ、人の名前を略して読んだ。

「ヨシュアでいい。その略し方はなんか嫌なイメージが」
「言いにくいじゃん」
「うんうん」
「そうだよー」
 シンゾーとヤスも同意する。三対一か。マイノリティが尊重されない世の中は悲しいぜ。

 一応、オレの正しい名前は森 芳也だ。芳也と書いてヨシュア。親の程度が知れてしまうが、カタカナだけ見れば嫌いじゃない。……それはそれとして、何の用だっけ?

「タローが今朝お宝拾ったんだよー」
「まさに宝だぜ、これは」
 そう言ってオレに見せたケータイターミナルには、金髪で超巨乳のお姉さんが、ちょっと見た事無いくらいでっかいチンコに貫かれる動画が映っている。

 おう……これはいくらなんでも、ステレオタイプすぎるよ。消音だけど、絶対「オウ、イエース」とか「アイムカミーン!」とか言ってる。家でもエロいものは見た事無いわけじゃないけど、これは今時珍しいんじゃないか。ああ、そういう意味のお宝か。

「……うん、大切にしたらいいんじゃないかな」
「なんだよ、冷めてるなー」
「なら、今度はもっとオレにも楽しいお宝見せて欲しいなー」
 そう言って乾いた笑顔を残して教室を出て行くオレだった。