今日の日付……

 四方を闇に包まれた会議室に、幅およそ二メートル、長さ数十メートルの長机だけがスポットライトに照らし出されていた。
 闇の中に壁は見えず、無限に続く闇の空間にただこの会議机だけが存在しているかのようだ、と誰かが呟く。 机の両脇に並ぶ人々の顔は影に隠れ、集められた者たちは未だ同席者に誰が居るのかも知る事はできなかった。

 間もなくスイッチが上がる音と共に、長机の一方の端…… 議長席にライトが灯る。 闇の中に浮かび上がったのは、噴煙を上げる火山か舞い散る桜吹雪かを思い起こさせる紅白の着物を身に着けたバイオネコミミだった。
 暗闇の中にあっても輝く短い黒髪に、常に何事にも楽しみを覚えているような笑みを浮かべるネコミミ女性の美しさに反し、 出席者のざわめきの多くは畏れによるものだった。
 このバイオネコミミこそが、人類に対して地上を放棄させた戦争の首謀者一族、神野真人の娘の真菜であった。

 そんなざわめきも聞こえないかのように、真菜は予定を崩さずに会議の幕を上げた。

「皆様、本日はお忙しい中お越しくださりありがとうございます。 各勢力で重責を帯びていらっしゃる皆様に話し合って頂きたいのは、このテーマでございます」
 天上の闇から吊下げられたスクリーンに映し出されたスライドには、可愛らしい少女のイラスト付きでこうあった。

この作品の登場人物は全員18歳以上です。

「よくある成人向け作品冒頭の但し書きですね。わざわざ注意書きをするからには、こう書く事による実利があるはずです。 何でしょうね? ……はい、明彦さん早かった。そうですね、各自治体で制定されている淫行条例で定められている、淫行の対象が18歳未満なんですね。 18歳以上の子にえろえろする分には淫行条例に抵触しないというアピールですね」

 真菜は嬉しそうに尻尾を左右に揺らしながら、手元の端末を操作してスライドを切り替える。

「次は、この写真について考えてみましょう!」

 ページをめくるような効果と共に切り替えられたスライドには、真菜が幼いネコミミ少年を、開いたおむつの上で犯している写真が映し出されていた。

「僕じゃん!え、何で!?」

 思わず身を乗り出したスーツ姿に金髪のネコミミ青年がライトに照らし出される。若宮明彦の息子である若宮ペトロニウス、愛称をピートという。
 真菜はそんなピートに視線も寄越さずに続ける。

「見るからに幼いピート君ですね。彼は実際に18歳以上ではありません。しかし、なんとこの写真は条例に抵触していないんですよ!」

 真菜がぶんぶん振る尻尾が椅子に当たって音を立てている。見るからに興奮状態であった。

「どういう事かをこれから説明いたします。次のスライドをご覧ください」

 スクリーンには、この国の法律に人の定義が無い事、それでも必要となる場合の判例、そして学説が映し出された。

「人が法的権利を享受できる『人の始期』について、法律上の取り扱いの議論が行われてきました。特にここで扱うのは、刑法の主体となる人であるかどうかです。人が刑法上の人として扱われるタイミングについては、現在二つの有力説が存在します。 すなわち、『一部露出説』と『全部露出説』です。それぞれ、『母胎から体の一部が露出した瞬間』、『母胎から体の全てが露出した瞬間』に人と見なされる…… という意味です」

 一息に喋った真菜は、卓上のグラスを一口飲む。水ではなくミードが満たされていた。

「さて、ここで本題に入ります。ピート君は2082年生まれです。つまり、現在の年齢はほにゃらら歳となります」

 会場にどよめきが起きる。

「もうおわかりですね。ピート君は、今日の日付時点では母胎から一部露出も全部露出もしていません。彼は、法律上は淫行条例の対象にならない胎児なのです!」

 言い切ると同時に真菜が拳を突き上げると、開場から万雷の拍手が挙がる。もはやピート君の抗議もかき消され、真菜の猫耳には入らなかった。

「先生!質問があります!!」

 しばらくして拍手がまばらになった頃、長机の中程に座っていた、肩まで金髪を伸ばしたネコミミ少年が手を挙げる。

「はい芳也くん。元気がいいですねー。質問は何でしょう?」
「この会議は、読者がページを開いた日に開催されている設定なんだよな?ピートの年齢も、ページを開く度に計算されてると思うんだけど。 もし、この会議をピートの誕生日以後に開催していたらどうなるんだ?」
「とてもいい質問ですね!実はこの会議のURLにパラメータをつけると、任意の開催日時に変更できます。もし、この会議を2085年に開催していたらどうなるか、では実際に見てみましょう」
「オチはその先でって事?」
「そういう事です。ほら、リンクを開きましょうね」

2085年に会議を開催した場合

 今日の日付……

 四方を闇に包まれた会議室に、幅およそ二メートル、長さ数十メートルの長机だけがスポットライトに照らし出されていた。
 闇の中に壁は見えず、無限に続く闇の空間にただこの会議机だけが存在しているかのようだ、と誰かが呟く。 机の両脇に並ぶ人々の顔は影に隠れ、集められた者たちは未だ同席者に誰が居るのかも知る事はできなかった。

 間もなくスイッチが上がる音と共に、長机の一方の端…… 議長席にライトが灯る。 闇の中に浮かび上がったのは、ワイルドに金髪を短く切った、金髪のスーツ姿の青年だった。

「皆様、お集まり頂きましてありがとうございます。僕は本日の進行役代理を務める、若宮ペトロニウスと申します」

 深く礼をする青年に注目が集まる。一体何のためにこの会議は開催されたのか、その答えを求めて。

「しかし皆様にはお詫びしなければなりません。本日司会を務めるはずだった神野真菜が、今朝逮捕されたため、本会議は中止とさせていただきます」
「えー!」

 ざわめきが会場を包み込む。これだけ意味ありげな舞台を整えて招待されて中止となれば、なかなか納得できるものではなかった。 それと、司会が逮捕とはどういう事だと声が上がる。

「神野氏は、未成年に対する淫行容疑で逮捕された…… との情報が入っています。プライバシーに関わりますので、これ以上はご容赦ください」

 再度ペトロニウスは深く頭を下げた。会場の混乱は未だ収まらぬ中、議長席背後の闇から現れた黒服サングラスのバイオネコミミがペトロニウスに封筒を差し出す。

「皆様、議長より伝言が届いております。本来この会議はこうなるはずだった、とのハイパーリンクが同梱されていました。 お手数をおかけいたしますが、リンク先をご覧ください」

こうなるはずでした

 今日の日付……

 四方を闇に包まれた会議室に、幅およそ二メートル、長さ数十メートルの長机だけがスポットライトに照らし出されていた。
 闇の中に壁は見えず、無限に続く闇の空間にただこの会議机だけが存在しているかのようだ、と誰かが呟く。 机の両脇に並ぶ人々の顔は影に隠れ、集められた者たちは未だ同席者に誰が居るのかも知る事はできなかった。

 間もなくスイッチが上がる音と共に、長机の一方の端…… 議長席にライトが灯る。 闇の中に浮かび上がったのは、噴煙を上げる火山か舞い散る桜吹雪かを思い起こさせる紅白の着物を身に着けたバイオネコミミだった。
 暗闇の中にあっても輝く短い黒髪に、常に何事にも楽しみを覚えているような笑みを浮かべるネコミミ女性の美しさに反し、 出席者のざわめきの多くは畏れによるものだった。
 このバイオネコミミこそが、人類に対して地上を放棄させた戦争の首謀者一族、神野真人の娘の真菜であった。

 そんなざわめきも聞こえないかのように、真菜は予定を崩さずに会議の幕を上げた。

「皆様、本日はお忙しい中お越しくださりありがとうございます。本日はですね……」

 真菜はそこで言葉を切り、着物の袖をはためかせて議席の一つを指さした。

「そこのピート君のエロ写真を題材に、未成年淫行が成立しない場合についてを大いに屁理屈こねて語ろうと思ったんですが!!」

 指差された若宮ペトロニウス、通称ピート君をスポットライトが照らし出す。スーツ姿のネコミミ青年は突然の事に目を丸くしていた。

「なんと、ピート君は今日時点でほにゃらら歳なんですね。成立しないんですよ、会議が!!!」

 興奮した真菜は尻尾をぶんぶん振り回し、彼女の後ろに控えていたサングラスにスーツ姿のバイオネコミミをビシビシ叩いてしまっている。

「もう会議は成立してないんですけどね。成立したらどうなるのか、再現VTRをこちらのリンク先に用意しました。ハイ、皆様リンクを開きましょうね!!」

こうなるはずでした